2015年10月 7日
#450 佐々木 隆道 『自分のプレーの色を出す』
サンゴリアス2年目の時にラグビーワールドカップ2007フランス大会にて、日本代表ゲームキャプテンの役割を史上最年少で担ってから8年。様々な紆余曲折を経て社会人10年目のシーズンを迎えた佐々木隆道選手は、いまだに成長途上にあると語ります。より一層の活躍が楽しみな佐々木選手に、今シーズンへの意気込みを聞きました。(取材日:2015年9月8日)
◆成長する気持ち
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—— 10年目のシーズンですが、調子はどうですか?
まだまだ成長する気持ちで過ごしていますし、実際に成長もしています。フィジカル面もフィットネス面も比例するように上がってきていて、体の衰えは感じていません。
—— 最近は怪我もしていませんね
ベースのフィットネスをしっかりと作って、自分の体をコントロールすることを意識するようになってからは、怪我をしなくなりましたね。疲れて動きが疎かになったり意識レベルが低くなると体も動かなくなるので、そういう時には自分の体をコントロール出来なくなって怪我をしてしまいます。
—— そのためには体調管理と意識が重要になりますか?
いつも同じ準備をして、グラウンド上では良いパフォーマンスを出すということを意識しています。
—— いつも一緒の準備をするためのルーティーンが定まったのはいつ頃ですか?
昔は何時に起きて、何を食べてと、色々なことを決めていましたが、どんどん減ってきて、今は本当に必要なことしか残っていません。例えば、僕の場合は試合前だからと言って、過度に炭水化物を摂らないようにしています。
炭水化物は摂った方が良いと言われているんですが、僕は過度に炭水化物を摂ると、体重がその分増えて、試合で良いパフォーマンスが出せないんです。1kgくらい体重が増えただけでも、体が重いと感じます。
普段はそんなに食べていないのに、試合前だからと言って情報だけを頼り炭水化物を過度に摂って、それで自分のパフォーマンスを発揮出来ないのであれば、いつも同じ準備をするために自分が思う適切な量を食べて、自分で体調管理をするようにしています。
—— それが分かったのはいつ頃ですか?
ここ2~3年で自分に合う方法が分かりました。そこに気づくまでは、パフォーマンスが上がらない時などをきっかけに、これまでのやり方を少し変えてみて、そこで少し良くなって、ということを繰り返していました。
◆自分の良いプレーで貢献
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—— 成長を続けているのであれば、また日本代表に呼ばれるかもしれませんね
今は体重が101~102kgくらいなんですが、日本代表になるためには、103~105kgくらいの体をしっかりと使いこなせないと難しいと思います。それを目標にしていますが、いま体重を105kgにすると、僕のプレーは出来なくなってしまいます。自分のパフォーマンスを上げていくために徐々に体重を増やしてきているんですが、背伸びをしても仕方がないので、自分の出来ることを少しずつ積み上げている状態です。
今までは個人的にやりたいプレーとチームから求められているプレーのすみ分けが出来ていなかったので、良い成長が出来ていなかったと思います。この先にインターナショナルレベルの選手になるチャンスはあると思いますが、もっと以前にもあったと思っています。
これまでは自分の気持ちが弱くて、サントリーから求められているプレーを100%やりたいという気持ちが出てしまっていました。サントリーのスタイルに合うようなプレーを心掛けて取り組んでいくと、シーズンによって少しずつフォーカスするポイントが変わってくるんです。自分の強みはどこで、どこを評価されて代表などに呼ばれていたのかという理解が低かったと思います。だから、いま日本でワールドカップを楽しみにするしかないんだと思います(笑)。
僕の良いプレーはブレイクダウンでしっかりボールを取ってきたり、相手にプレッシャーをかけたりするというところだと思っています。ただ、そういうプレーはペナルティーと背中合わせなんです。そういうプレーが僕の良いプレーではあったんですが、あるシーズンの試合でペナルティーが多くて試合に負けたというデータが出たので、ペナルティーを減らすために自分の良いプレーを抑える時期がありました。
自分の良いプレーを抑えてプレーしてきて、昨年、敬介さん(沢木/日本代表コーチングコーディネーター)に会った時に、そのことを指摘されたんです。その指摘で気づかされた部分があって、今更遅いかもしれませんが、自分の良いプレーをどんどん出していき、自分の良いプレーでサントリーに貢献出来るようにしていこうと考えるようになりました。
もちろんチーム優先という気持ちはずっとありましたし、サントリーで必要とされたいと思ってきましたが、やはり7番というポジションはブレイクダウンで活躍出来ないと評価されないポジションなので、その部分のすみ分けが出来ていなかったと思います。
—— 今シーズンから新たな考え方で取り組んでいるわけですが、自分の中でこれまでとはかなり違うんですか?
簡単に言うと、これまではチームのディフェンスをすれば良いと思っていた部分があったと思いますが、今はチームのディフェンスをしながら、ボールを取り返す仕事もしっかりしていこうと思っています。
—— 師と仰いだジョージ・スミス選手(2011-2013在籍)の影響もありますか?
あると言えば、ある方だと思います。2人でどんどんボールを取っていきたいと思ってやっていて、ジョージがチームを離れたことで、僕が更にボールを取ろうとしてペナルティーが増えてしまったんです。チームから特に禁止されたわけではなかったんですが、僕がコンサバティブ(保守的)な答えを出してしまっていたんです。 今シーズンについては、もう一度自分の色を出しつつ、チームを強くしていきたいというテーマを持って取り組んでいます。
◆格闘技っぽいタックル
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—— 更に以前の話をすると、社会人1年目から活躍し、その後停滞した時期を経て、今に至ると思いますが、停滞した時期を乗り越えたきっかけは何だったんですか?
停滞した時期は、自分の体をコントロール出来ていませんでしたし、自分はもっと出来るというイメージだけが先行していて、色々なものをしっかりと吸収出来る状態ではなかったと思います。
エディーさん(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)がサントリーの監督になった年に、プレーに関して僕の全てが変わったと思っています。エディーさんが監督になるにあたって、「チームプレーヤーとはどういう選手か」とか「もっと仲間を信頼して一生懸命やりなさい」とか、そういう人間のベースの部分をまず変えて、そこからサントリーに認められたい、みんなに認めてもらいたいという気持ちを持ちながら再スタートを切りました。そうすることによって自分のプレーも上がってきました。
—— 大きな変化ですね
チームに残るかどうか、ラグビーを続けるかどうかまで考えました。マイナスからの再スタートで、1年生の気持ちでやっていました(笑)。
—— なぜ変えようと思ったんですか?
チームを変えたとしても、必ず起こることだと思いました。だから、ここでチームを離れることは、自分の成長にはならないと思いましたし、どちらかと言えば、逃げの選択だと思ったんです。チームに残る選択をしたことは正解だったと思っています。
—— 10年目のシーズンに目指しているものは何ですか?
自分のプレーの色を出すことです。アタックでもディフェンスでも、ブレイクダウンでしっかり仕事をすることが、まず第一です。意識して取り組むことによって、良くなってきていると思います。
春から総合格闘技のトレーニングも積んできているので、その成果がラグビーでも出ていると思います。格闘家っぽいタックルにも注目してもらいたいですね(笑)。
◆チャレンジャーという気持ち
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—— サンゴリアスの今の状態はどうですか?
今年は代表選手がいない中で、ずっと若手が中心となって取り組んでいて、プレシーズンリーグも若手中心に戦っています。若い選手がどんどん成長してきていて、チームが転換期に差し掛かってきているのかなと感じています。
サントリーは2シーズンもチャンピオンになれていなくて、言ってしまえば、もうチャンピオンチームではないんです。ただ、これまではチャンピオンチームみたいな雰囲気というか、チャンピオンチームだったことを忘れられていなかったと思います。
今シーズンこそはチャレンジャーとして、「しっかりとチャンピオンにチャレンジしていくんだ」という気持ちでぶつかっていかないと、強いサントリーには戻れないと思います。
—— チーム全員がそういう意識で取り組めていますか?
みんなに成長しようとする姿勢がありますし、試合で快勝することはありませんが、少しずつ経験を重ねてみんなで強くなっていっている感触があるので、代表選手が帰ってきた時に彼らがすんなりメンバに入れないように、全員で成長しておきたいと思っています。
—— 代表選手が帰ってきた時に、若手選手がどれだけ試合に出られるかですね
強欲な部分も必要になりますし、目立ちながら良い所を出していかなければいけないと思います。そして、良い所を見せるためには努力が必要です。ただ努力をすれば良いということじゃなくて、努力を形に出来なければダメなんですよ。
—— 努力を形にするポイントは?
僕も全てを叶えられていない立場なので、そこが本当に難しいんですが、自分がなりたい像を明確に持って、それに対して周りの意見に左右されずに、しっかりとやり切れることが本当に大事だと思います。
それは自分を信じるということになるんですが、そこが本当に難しいことなんです。自分を信じすぎると驕りに繋がることにもなると思いますし、その状況を見極めながらやり続けることなんですよ。
「素直であれ、謙虚であれ」というのは合っていて、それをやり続けることが難しいんです。才能もあると思いますし、子供の頃の環境や出会いなどの影響も大きいと思います。今の状況から飛び抜けるためには、努力プラス欲がないといけないと思います。
—— 努力をしていても試合に出られない選手は欲が弱いということですか?
欲が弱かったり、周りの目を気にしていたりすると思います。自分で自分のことを掘り下げていかなければいけないんですが、それを表現出来ないとダメなんです。それが出来ない人は試合には出られないんです。僕らはそういう世界にいるんだと思います。それはスポーツに限ったことではなくて、会社でも上に立てる人はしっかりと自分の意見を持って行動していると思います。
その部分は教えられることじゃなくて、自分で気づかなければいけない部分だと思います。僕もこういう話をしていても、周りは気になります。僕の場合は、追い詰められた時に、そういう気持ちが出ちゃうんです。追い詰められた時に出せるか出せないかだと思います。
◆スタイルを信じ抜く
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—— サンゴリアスが再びチャンピオンになる可能性は?
しっかりと試合をコントロール出来れば、可能性はあると思います。そのためには、サントリーのスタイルをベースにしながらも、試合の中で自分たちの強みと弱みをしっかりと見極めて、スタイルにとらわれ過ぎずに、良い所をどんどん出していければ良いと思います。それもひとつのスキルだと思いますし、そういう部分を出さなければ勝てない時期に来ていると思います。
—— その見極めは、経験が必要になりますよね
だから、シニアメンバーが大事になるんですよね。僕の同期が何人もチームにいますし、彼らは癖が強いというか、ただじゃ折れない選手ばかりなので、僕もその一員として粘り強くサントリーに貢献していきたいと思います。プレシーズンも含め、3つのタイトルを取りに行きます。
—— ワールドカップはどこが楽しみですか?
ジャパンが勝つことです。客観的に見ると難しいことだとは思うんですが、代表選手たちの努力を見てきていますし、実際に結果も出してきているので、ワールドカップで日本が強くなったということを示して欲しいと思っています。
—— ワールドカップは他の大会とは違いますか?
全然違います。どの国の選手でも、全てを懸けてしまう大会がワールドカップだと思います。だから、本当の強さが出る大会です。
—— そういう大会では何が大事になりますか?
やはり日本代表としてのスタイルを信じ抜くことだと思います。
—— 2019年の日本でのワールドカップに出場するイメージはありますか?
正直、そこまでは考えていませんが、今年のワールドカップでしっかりと結果を出してもらって、ラグビーという競技にみんなが興味を持ってもらえるようになっていって欲しいですし、国内からも盛り上げていきたいと思っています。
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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]